家の中に閉じこもった生活が続くと、知らず知らずのうちにロコモになる危険が!?
誰もが抱えうるロコモの問題について、シンガーソングライターの嘉門タツオさんと、15年以上の親交があるロコモ チャレンジ!推進協議会の佐藤公一副委員長が語り合います。

親の健康をきっかけにロコモが身近なものになった

嘉門タツオ(以下嘉門):昨年末、ラジオ番組で(ロコモアドバイスドクターでもある)鄭克真先生と対談する機会があったのですが、それまではロコモティブシンドロームのことはまったく知りませんでした。でも、膝や脚の筋力が衰えると急に弱ってしまうというのを実感する出来事があったんです。僕には90歳近くになる母がいますが、3年ほど前から股関節を悪くして、歩くのが難しくなってしまって……。それまで元気に颯爽と歩いていた人でも、弱りゆくことは必然なんだと感じました。今は高齢化が進んでいますから、誰もが抱える問題ですよね。

佐藤公一(以下佐藤):ロコモと聞くと高齢者のイメージがありますよね。けれど、体に変化が出始めるのはだいたい50歳頃。統計データによると、整形外科の手術を受ける年代のピークは70代後半から85歳くらいですが、そういった方々が最初に受診に来るのが50歳くらいなんです。「あれ、おかしいな」と感じるきっかけは、環境が変わった時に多いようです。たとえば、自宅のベッドでは普通に立ち上がれるのに、旅館の布団から起き上がって立つことができなかった、とか。現代は便利な生活様式になり、弱っていることになかなか気づけないのです。

嘉門:なるほど! 便利すぎて気づかなくなっているんですね。確かに、最近は和式トイレもめっきり見なくなったし、正座する機会も少なくなりました。昔は日常生活の中で足腰が鍛えられていたんですね。

佐藤:今はコロナ禍で出歩く機会が減っていて、知らないうちに歩く機能が低下してしまっている危険もあります。ロコモティブシンドロームは、病気ではなくて“状態”のこと。ですから、年齢に関わらずご自身でチェックしてみることが大切です。

嘉門:僕自身は、兄弟から「母が部屋の中で転んだらしい」といったことを伝えられて、初めて身近なものとして意識するようになりました。「年だから仕方ない」と受け入れる気持ちも大事ですが、ロコモ対策はその手前の、コーナーを曲がる前から始められるアクションですよね。曲がり角は誰にだって来るもの。どうせ曲がるなら、その時期をできるだけ先延ばしにしたいし、曲がってどこに着地するかの意識を持っているだけでも違うと思います。そうした気づきを同世代の人たちに促す意味も込めて、ロコモについての歌を作りました。

還暦を過ぎた今だから発信できること

「ロコモティブシンドロームの歌」で嘉門さんは、加齢とともに身体能力が低下すること、適度な運動を心がけることなど、ロコモを理解する上で重要なフレーズを軽快なリズムと親しみやすいメロディに乗せて歌っています。

嘉門:物事の入門編として意識喚起するのに、歌というのはとても有効なツールなんです。今回は「ロコモティブシンドローム」という言葉を楽しく覚えられて、なおかつリズムよく手拍子もできるように、自分が過去に発表してきたメロディを使いました。歌いながらロコチェックができるようになっているんですよ。

佐藤:「ロコモ」という言葉だけでは、それがどういうものなのかが伝わりません。私たちも日々、ロコトレの動きに合わせてこんな歌を歌ったらどうだろう? と考えたりしますが、嘉門さんの歌には圧倒的な力があって、「これはいい!」と思いました。

嘉門:僕は街やイベントの応援ソングを作ることが多いのですが、その幅も広がっていて、最近では介護施設のレクリエーション用に歌を作ったこともありました。また、1月にコロナ禍の看護現場について歌った動画をYouTubeで配信したところ、大きな反響があったんです。まだまだ歌うテーマはいっぱいありますが、60代になった今だからこそ発信できるものもあるのかな、と感じています。

日頃から体の状態を確かめる手段を持っておく

1983年のレコードデビュー前から、数多くのライブ活動を行ってきた嘉門さん。20代の頃から国内外でたくさんのライブを重ねてきたことが、体力の基盤になっているといいます。そんな嘉門さんの、現在の健康法とは?

嘉門:パワープレートという振動マシンの上に乗って、スクワットや片足立ちをしたり、エアロバイクをこぎながらコーヒー豆を挽いたりしています。ただ立っている、座っているだけなのはもったいない気がして(笑)。

佐藤:スクワットの姿勢で耐えるというのが良いポイントですね。健康のために歩く人は多いですが、ふだんの歩行は3割程度の筋力でできてしまうので、ロコモを防ぐトレーニングにはならないんです。ロコモ対策という点では、嘉門さんのように少し筋トレの要素を入れた動きが望ましいといえます。

嘉門:ロコチェックのような、日頃から体の状態を確かめる手段を持っておくことが大切だと思いますね。僕は40歳のときからランニングもしていますが、少し調子が悪くても、動かすことで体が整う感覚に気づいたんです。それ以来、ケガとも縁がないんですよ。

佐藤:自分の体力も、親の健康も、現実の中に身を置いてこそ実感が湧くものです。ロコモも、歳を重ねて身近になる、共感できるものなのかもしれません。

嘉門:だからこそ、「自分はまだ先」と思っている人たちにとって、僕の歌がロコモを意識するきっかけになればいいなと思います。

ロコモティブシンドロームの歌

作詞/作曲 嘉門タツオ

嘉門タツオさんがロコモティブシンドロームを知ってもらいたいという思いでつくられた歌です。

嘉門タツオ(かもん・たつお)

シンガーソングライター。1959年大阪府生まれ。1975年、高校在学中に落語家の笑福亭鶴光師匠に弟子入り。破門後、1981年よりライブ活動を開始し、1983年、嘉門達夫として「ヤンキーの兄ちゃんのうた」でレコードデビュー。以来、ライブ、テレビ、ラジオなどで活躍。現在は「嘉門タツオ」と名を改め、小説やコラムの執筆、YouTubeを始め、Clubhouseなどの新ツールにも活躍の場を幅広く展開し続けている。

佐藤公一(さとう・きみひと)

1980年に順天堂大学医学部整形外科学教室入局後、関東労災病院スポーツ整形外科、順天堂浦安病院整形外科、同病棟医長を経て、1993年に佐藤整形外科開院。スポーツ整形外科、膝関節外科、骨粗鬆症を専門とし、日本整形外科学会や日本臨床整形外科学会の役員として、ロコモや運動器の障害などの啓発活動に取り組んでいる。